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『〈ナイト・シー〉の壁をぬけて』
オットー・クーンツ著,原田勝訳/徳間書店(1998)
1999.2.8読了・記
ざぼんの実
ざぼんの木
いや、もう、これまで読んだどのホラーよりも怖い思いをさせていただきました。……という言い方は、決して大げさではありませんで、と言いますのも私がこれまでほとんどホラー小説というようなものを読んだことがないからなんですな。
キング、D.R.クーンツ等、欧米のホラー作家と言われる人の作品も未読ですし、和製の最近の鈴木光司の『リング』、牧野修『屍の王』ですとか、坂東真砂子、篠田節子の諸作品も、「なるほどうまくできている」と感心することはあっても、怖がるという状態からは程遠く、「なんだ、こんなの、ちゃんちゃらおかしいやい」とニヤつきながら読むことが殆どでありました。
ですから、「ホラー」というものは一部の迷信深い怖がりな人が読んで怖がるものだと思っている節がなかったと言えなくもないのですが、この本を読んで、確かにこれは嵌まるかもしれないと、「ホラー」に対する認識を新たにしました。
『<ナイト・シー>の壁をぬけて』は徳間書店の10代向けハードカバーのシリーズ(BFT=Books For Teenagers)から出ているジュブナイルです。私のようなホラー初心者にはまさに最適のメディアですね。私はてっきり昔のあかね書房系の不条理恐ろしげなジュブナイルなのかと思って借りてきたのですが、ストーリーは至ってオーソドックス。そのまんまハリウッド映画に最適といった感じです。
ベンとセアラの弟姉は、お父さんの友人のガスが新しく手に入れた別荘で夏休みを過ごすために、母の運転でアーカンソーのオーセイブルにある山荘を目指していた。ところが待ち合わせにしていた場所には父の姿はなく、奇妙な真っ白い風体の親子が言うことには、ガスが急病にかかったために父と二人で山をおりたとのこと。しかもその時、一人の女性が耳に奇妙な噛み傷を負ったぐったりとした少年を抱いてやってきた。山の人々の奇妙な行状に怯え、父とガスを心配しながらも3人が宿泊先の山荘に向かうと、父とガスが乗っていったはずの車がまだ残っている。ではなぜ白い親子は嘘をついたのか? 青白く光る生物がうろつき、奇妙な声でセミが鳴く夜を山荘で明かして、3人は父を探そうとするが……。
実は姉のセアラは白血病に罹っています。セアラはクラスの友達が高校にあがるなかで一人中学3年生をやりなおさなければならず、一応病気は小康状態を保っているものの、家族は今度の旅行がセアラを交えての最後の思い出になるかもしれないと思っており、セアラ自身もそれを感じ取っています。そこでセアラは何とか両親に心配をかけまいと空元気を出そうとするのですが、どうしてもそれをいらつくことでしか表現できない自分にさらにいらついています。弟のベンは、姉に対して自分一人が全世界の不幸を背負ったような顔をしていて、自分や両親も苦しんでいるのに分かっていない、とやはりいらついています。さらに母親はその二人の板挟みにあいながら、娘の体がたまらなく心配で、だがそれを娘に悟られまいと懸命で、ベンにあたることもあります。それがまたベンをいらだたせ……。
結局のところそれらの「いらつき」は、彼ら家族の一人一人が互いを気遣うことから生まれてきているのですが、この構図が全体的にキいてきて良いです。突拍子もない話が浮つかないように重しになってくれていますし、刻一刻と悪化してくるセアラの病状に、読者もハラハラせざるを得ません。このあたりのバランスが、私が嵌まってしまった原因だと思われます。化物(青白く光る羽のはえたイモムシがガラスにびっしり!というのも、かなりクる光景ですが)よりも、そっちが怖かったような……。
実際まあ、種明かし部分については、「なるほどジュブナイル」というような印象がありましたが(クォークとかはそれだけかいな〜(^^;とか)、読んでいる間は目が行を左斜めに横飛びしようとするのに、読解がおいつかない!というほどの疾走感を味わえました。ええもの読ませてもらいましたわ。
あー、面白かった!(*'▽'*)